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オマエら、ぬこたんを軽く見ない方がいいぞ。ぬこたんはオマエらを軽く見てるぞ。

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2006年2月26日

エピソード19:三匹が二匹に

ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)が死んだ。
俺が高校3年の冬だ。

ちょっとマヌケでいつもビクビクしていたポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)だが、焼酎漬けのマタタビを服用したときは最強だった。目が据わり、やくざの大親分の貫禄。
昆虫採取が得意なポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)だった。
入浴時には恐怖で死にかけていたポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)だった。

秋頃から食事の量が減り、体調が悪いようだった。
姉が心配してT市の動物病院に連れて行った。
この時はじめて動物病院の診察に立ち会ったが、人間の時と同じだったので驚いた。
「今日はどこが悪いの?お腹かな?どれどれ」とかポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)に話しかけながらお医者さんが診察をする。
ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)は元気が無く、されるがままだ。
「お腹のここは痛い?大丈夫ね。はいはい。」「目を見せてくださいね。ああ、異常はないようですよ。心配しないでね」と語りかけ、既にポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)とお医者さんの間には種族の違いを超えたコミュニケーションが成立している。

「最近、ご飯しっかり食べていますか?」とお医者さんが訊いたので、ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)がどう答えるか興味津々で見守っていた。
するとお医者さんはもう一度問いかけた。
そして俺を見て「ねえ、どうですか?」と訊く。
俺はあわてて「え?僕ですか?」と答える。
お医者さんはあきれ顔で「いや、キミのことじゃないですよ。この猫ちゃんのことですよ。最近食欲はどうでしたか?」と。
「ああ、ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)に訊いているんだと思ってました。すみません。」と俺が答えると「猫に訊いたって分からないでしょ!」と。
この医者は殺されても死なないだろうなと思った。
異常は見つからず、「疲労」という診断だった。
動物病院の世界では何でも「アリ」なんだと知った。

その年の暮れ頃には、ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)はふらふらになって痩せてしまった。
しっぽの付け根、お尻の穴のすぐ上の辺りに穴が開き、膿が出始めた。
毎晩家族みんなで膿を拭き取り(絞り出し)、消毒し、介抱した。
竹輪でも刺身でも、何でもほしがると思われるものを喰わせた。
が、ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)の病状は悪化する一方で、ついに固形物も食べられなくなった。
姉も俺も、再び動物病院へ連れて行く気はなかった・・・ 「過労」「老衰」「衰弱」程度の診断結果しか出ないだろうと、あきらめていた。

ほとんど立ち上がれなくなったポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)であったが、ある日の朝、姿を消していた。
ほとんど歩けないはずなのに、居間の定位置(看病用の特別寝床)はもぬけの殻。
猫は、自分の死に目を誰にも見せないという。
人知れず、孤独に死んでいく、それが猫だ。

マヌケで臆病でプライドのないポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)だったが、最後の最後で猫の意地を見せた。

姉は半狂乱になり、「今頃、外で動けなくなって『寒いよー!』『苦しいよー!』と泣いているに違いない!探しに行ってくる!」と外へ飛び出していったが、「・・・いない」と小1時間で帰ってきた。
そりゃそうだろう。
「誰の目にも付かない孤独な死に場所」を、最後の気力を振り絞って探し求めて出ていったんだから、見つかるはずがない。

その日の夕食は、葬式の夕食だった。
姉はめそめそし、母はため息ばかり。
父はむっつりと不機嫌で、俺だけ満足してた。
ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)の猫らしい誇りある行動を褒め称えた。
ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)こそ猫の中の猫、King of 猫様だと誇らしかった。
心の中でポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)に、「立派に孤独で死んでくれ!俺はオマエを一生讃えるぞ!!」とエールを送った。

その夕食の終わりがけに、ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)が帰宅した。
特設介抱寝床へ入り、狂喜した姉にミルクもらって飲み、気持ちよさそうに寝た。
翌朝、ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)は特設介抱寝床の中で冷たくなっていた。

いやね、翌朝にポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)の死に接したときは悲しかったよ。
でもね、なんか割り切れないのよね。
なにが「ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)こそ猫の中の猫、King of 猫様だと誇らしかった」のよ?
なにが「最後の気力を振り絞って、死に場所を見つけて彷徨う、孤独で誇り高き猫」なのよ?
悲しいけどツッコミたい、複雑な気分だった。

後々よく考えてみたが、「ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)こそ猫の中の猫、King of 猫様」ではなかったが、「ポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)こそ飼い猫の中の飼い猫、King of 飼い猫」だったんじゃないかと結論づけた。
死ぬ間際の約12時間の失踪。
その間にポミー(三男、しっぽ曲がり黒、ちょっとマヌケ)が何をしていたのかは、もう永遠に分からない。
しかし、「何があっても帰宅して、自宅で死ぬ」、これが「正しい飼い猫」の姿なのかも知れない。

俺は、「自分で死に場所を選んで死に目を誰にも見せず、孤独に死んでいく誇り高き猫」の役割を、ネコジ(四男チビ、白いパンツ黒猫、ニヒルな天才児)に託したのは言うまでもない。

 

次回はガムテープの話をする。