この銃の「売り名」は、「FBIスペシャル」だ。なぜFBIなのか。凶悪犯罪を扱うFBIでは、普通の警察官よりも銃に頼る場合が多い。その場合、「初弾が短い時間で発射できること」「安全に携帯できること」「初弾が確実に発射されること」「ジャムがないこと」「銃撃戦になったときに、リロードの時間が短いこと」が要件とされる。まだオートの信頼性が低かった時代、「初弾が確実に発射されること」「ジャムがないこと」でリボルバーは確定する。「初弾が短い時間で発射できること」「安全に携帯できること」で、M1911A1のようなシングルアクションオートも除外される(セイフティに頼って、ハンマーフルコックの銃を持ち運ぶ馬鹿はいない)。この段階ではM10ミリタリー&ポリスが自動的に選択されるわけであるが、ここで問題がある。4インチでは銃身が長すぎて持ち運びにくい。2.5インチではエジェクションロッドが短くなってしまい、シリンダーに張り付いた空カートが排出しにくく、「銃撃戦になったときに、リロードの時間が短いこと」が満たされない。そこで、エジェクションロッドはフルレングスのままで、銃身をギリギリまで短くした・・・それが3インチであった。さらに、射撃がしやすいよう、バレルを太くして、前へ重心を持っていった。こうして生まれたのがM10F.B.I.Spesialである・・・以上が、雑誌やらこの銃の説明書の説明だった。
「凶悪犯を追い、命をかけて逮捕する」というハードな任務に対して、日本の漫画は「加納;ブラックホーク」「宮武;オートマグ」という回答を示したし、アメリカでも映画界では「ハリー・キャラハン;M29」という回答を出した。双方とも架空である。架空であるから、「凶悪犯にはパワーを!」という一般ウケしやすい方向へ行ったわけだ。が、事実は違うぞ、と。本当に日夜凶悪犯を追っているFBIでは、派手なパワーではなく、地味な「携帯性能やら速射性能、確実な作動」という方針でいるぞ、と。なんか、プロっぽい地味な方向でカッチョイイ。
で、鳴り物入りで発売されたこの銃、当時は雑誌をにぎやかに飾った。リボルバーのコクサイのプライドにかけて、「さすが!」と思わせる作りだった。各部のカッチリ感、仕上げの美しさなどは格別だった。カートも前作までのM19と同じフルレングスのカートだったが、カート底部の刻印は357Magnumではなく38Specialだったのに感動した。感動したから、別売りカートとスピードローダを買った。
残念ながらこの銃の欠点は「重すぎるトリガー」だった。煙のガーランドほどではなかったが、重い。とてもダブルでトリガー引ききっての連射は無理。少なくとも、まともに的狙っての連射は無理。その割りには弾の威力はなく、飛距離も出ない(HOP以前の製品)。
惜しまれつつ、他の銃購入費用になるためにオクで売られていった。